ハーバードでも通用した 研究者のための英語コミュニケーション

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本連載が大幅加筆して単行本『ハーバードでも通用した 研究者の英語術』になりました!

本連載の主旨・概要は「はじめに~ひとりで学ぶ英語の心得」をご覧下さい

第2回 アブストラクトの書き方②
~優れたアブストラクトを書くために,知っておくべきたった一つのこと

”やる価値のあることは,まずは失敗してみる価値がある”
”If a thing is worth doing, it's worth doing badly at least at the beginning. ”

連載イラスト

よい文章を書く秘訣を知っていますか? 良い文章というのは無から生まれるものではありません.白紙のうえにいきなりよい文章が書かれるわけではないのです.良い文章は,悪い文章から生まれるのです.良い文章とは,悪い文章を何度も書き直すことによって初めて生まれるのです.良い文章を書く秘訣とは,まず悪い文章を書くこと.そして,それを何度も校正することなのです.

同じことがアブストラクトにも言えるのです.良いアブストラクトがなかなか書けないと悩む必要はありません.いきなり第1稿から良いアブストラクトが生まれることなどありません.良いアブストラクトは,悪いアブストラクトを何回も書き直すことにより,初めて生まれてくるのです.完璧主義者になっていては筆が(ワープロが)進みません.とにかくまず悪くていいので第1稿を仕上げる.その後自分で何回も書き直し,初めて良いアブストラクトができるのです.何回も書き直すことにより不要な部分が徐々に削ぎ落とされ,本当に必要な単語だけが残っていくのです.回りくどい言い回しや,最適化されていない表現が出尽くしたあとに,“集中力”と“創造性”がやっと発揮され,納得のいく表現ができようになるものなのです.

まず第1稿を書いてすぐ指導者に見てもらうこともあるかもしれませんが,これはお薦めできません.自分で書いたドラフトを自分で訂正・改善していくセルフ・エディティングの能力を育てることが,英語ライティング・スキルの向上には不可欠なのです.自分の書いた文章を客観的に見ることは容易ではなく,セルフ・エディティングを行うことは簡単なことではありません.何時間もまったくエディティングが進まないこともあるかもしれません.そんな時は指導者に添削してもらいたい衝動にかられますが,ぐっと我慢して丸一日原稿を寝かせ,次の日にもう一度とり組みましょう.いったん原稿から離れることで,“視野狭窄”状態を解除でき,新しい視点が生まれることが期待できます.セルフ・エディティングは決して楽なプロセスではありませんが,習慣化することにより英語ライティングの力は確実に伸びるはずです.数十回はアブストラクトをセルフ・エディティングすることをお奨めします.数十回のセルフ・エディティングのために十分な時間を最初から計画に入れておきましょう.それでは次にアブストラクトを書くうえでの具体的なポイントをみていきます.

セルフエディティングについての補足

セルフ・エディティングに近道はありません.日本の高校レベルの文法が理解できていれば,その後はネイティブの書いた英文をたくさん読んで,自分で書いてみて,自分の書ける文章のレパートリーを少しづつ広げていくしかありません.これは必ずしもただ単に慣れるのがよいという意味ではありません.私が個人的に心がけていることは,セルフ・エディティングの過程では,表現の上手さよりも,ロジックの整合性に重点を置くということです.多少下手な英語でも,論理的で,つじつまが合っている文章を書くということです.

自分の書いた英語の表現が一般に使われているかどうか自信がもてないときには,目安をつける方法として自分の書いたフレーズに“ ”をつけてグーグルで検索してどれくらいヒットがあるのかとか,どういうコンテキストで使われているのか調べてみるのも一つの方法です.たとえば,it remains elusive を強調したいのだが, “remains entirely elusive” “ remains absolutely elusive”などでいいのだろうかと検索してみて,「前者の方がヒット数が多いので,前者を使おう」などという具合に使っています.検索でヒットが多いから正しいと言うわけではありませんが,ここでは完璧主義に陥らずに,問題があれば後に訂正するというぐらいの気持ちで進めていけばいいでしょう.

セルフ・エディティングを重ねたあとは,ネイティブ・スピーカーに添削をしてもらい,フィードバックをもとに自分のライティングに磨きをかけるのが理想的です.私の場合には,重要な文章(投稿論文とグラント申請書)に関しては,セルフ・エディティングを20~50回重ねたのち,ジョーに有料で添削をしてもらっています.誰に依頼するか,どのエディティング・サービスを使うかで幅はありますが,200字程度のアブストラクトの添削なら本一冊程度の代金(千円程度)で可能でしょう.この価格をどう感じるかは人それぞれだと思いますが,英会話の個人レッスンよりずっと低価格です.セルフエディティングをして自分が考え抜いた文章に対するネイティブからのフィードバックは,自分に特有のライティングの問題点を修正する非常に貴重な機会ですので,投資する価値が十分にあると思います.

※下部ジョーのプロフィールを参照

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プロフィール

島岡先生 写真
島岡 要(Motomu Shimaoka)
大阪大学卒業後10年余り麻酔・集中治療部医師として敗血症の治療に従事.Harvard大学への留学を期に,非常に迷った末に臨床医より基礎研究者に転身.Mid-life Crisisと厄年の影響をうけて,Harvard Extension Schoolで研究者のキャリアパスについて学ぶ.現在はPIとしてNIHよりグラントを得て独立したラボを運営する.専門は細胞接着と炎症.
ブログ:「ハーバード大学医学部留学・独立日記」A Roadmap to Professional Scientist
過去の連載:プロフェッショナル根性論 online supplement material

Photo: Liza Green (Harvard Focus)

ジョー先生 写真
ジョー・ムーア(Joseph Moore)
1999年から2004年までハーバード大学医学部のフォンアンドリアン教授のオフィスマネージャーとして,グラントの編集とポスドクと学生のための論文や申請書の作成と編集に関わる.
現在,フリーのライター兼エディターとして,International Piano and Classic Record Review等にクラシック音楽に関する記事の執筆,サイエンスの分野ではグラント申請,論文作成,プレゼンテーションの英文校正や編集を行っている.
ウェブサイト:http://www.bandoneoneditingservices.com/

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