ハーバードでも通用した 研究者のための英語コミュニケーション

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本連載が大幅加筆して単行本『ハーバードでも通用した 研究者の英語術』になりました!

本連載の主旨・概要は「はじめに~ひとりで学ぶ英語の心得」をご覧下さい

第4回 英文メールの書き方①
~伝わるメールを書いて,英語ライティング・スキルを高める

伝わるメールの書き方

メールによるコミュニケーションは現在,仕事のほぼすべての場面で頻繁に使用されています.日常の研究室内や研究者間での共同研究者との仕事の打ち合わせ,投稿論文に関してのジャーナルのエディターとのやり取りや,研究費に関してプログラムオフィサーとの交渉,そしてすぐ隣のデスクの同僚や先輩・上司に対しての日々のちょっとしたお願いや質問までメールで行われることも珍しくありません.

このようにコミュニケーションの手段の第1選択としてメールが使われる理由は,簡易性,便利さ,コストの低さに加え,敷居の低さが挙げられます.原理的には相手のアドレスさえ知っていれば,自分の言いたいことをメールに書き,相手の都合にお構いなくいつでも送りつけることができるのです.しかし,あなたのメールが相手のメールボックスに届いたとしても,受け取り手にそのメールが読まれ,そしてあなたの言いたいことが伝わるとは限りません.メールで真意を伝えることはたとえ日本語であっても簡単ではなく,本来意図したメッセージがまったく伝わらないことや,誤解されて伝わってしまうこともしばしばあるのです.

本章では,たとえ英語が荒削りでも言いたいことが伝わるメールの書き方のスタイルを解説します.ひとつ断っておきたいことは,ここでの本来の目的は,英文メールの書き方を学ぶことを題材として,英語ライティング・コミュニケーション力を磨くことにあります.したがってこれから解説する事は英文メールを書くためのマニュアルという性質は弱く,むしろ英語ライティング・コミュニケーションの鍛錬の場として日々のメールを利用するという趣旨が強いと考えてください.

下手な英語を話すことは許されても,下手な英語を書くことは許されにくい

このウェブ連載の第1回で,英語ライティングに重点を置いた英語学習法を推す根拠として,英語を書く(ライティングでのコミュニケーション)能力は,英語を話す(口頭コミュニケーション)能力に比べて独学で磨くことにより適している,そしてライティングでのコミュニケーションが今後のグローバル化にともないますます重要になってくることを挙げました.ここでもうひとつライティングを真剣に学ばなければならない重要な理由を挙げますと,米国では,“話し言葉としての流暢でない英語”(とくにアクセントや発音)に対してはかなり許容度が高いのですが,“書き言葉としての流暢でない英語”に関しては許容度が低いという背景があるからなのです(1)

(1) Scott Morgan, Improving Spoken English, a presentation at the NIH available at
http://videocast.nih.gov/Summary.asp?File=15153

さまざまな国籍やバックグラウンドを持つひとと英語という共通言語を用いて意思疎通をしなければならない仕事の場では,アカデミア・ビジネスの場を問わず“話し言葉としての流暢でない英語”を耳にしない日はありません.文法的に正しく訛りのない英語を話す人だけで行うミーティングというのは,グローバルな環境での仕事の場面では,今後ますます希になっていくでしょう.たとえ流暢な英語でなくとも,話す内容に価値があればひとは聴いてくれますし,顔をつきあわせての口頭コミュニケーションでは,表情やボディーランゲージから曖昧な意味や概念を察することもできます.また相手の表情から察して自分のいい足りないことを補足したり,別の表現で言い直したりするという多くのオプションが口頭でのコミュニケーションでは許されます.このような背景もあり,米国(とくにアカデミア)では口頭でのコミュニケーションで期待される外国人研究者の英語のレベルは一般にはそれほど高くないのです.日本人の研究者は目標とすべき口頭英語コミュニケーションの達成レベルを,この事実をふまえた上で現実的に設定することを考えてもよいでしょう.つまり,英語を話すのが上手くないという自己評価を理由に,何かをすることを躊躇する必要はないのです.

連載イラスト

しかし,ことライティングになると状況は異なってきます.ミーティングでは“話し言葉としての流暢でない英語”を辛抱強く聴いていた人たちでも,流暢でない英語で書かれたメールを辛抱強く最後まで読んでくれるひとは多くはないでしょう.メールは送るのが簡単であるため送信には敷居が低いのですが,読まないというオプションに対するする敷居も低く(*),流暢でない英語で書かれたわかりにくいメールや,長文の要領を得ないメールはきっちりと読まれることなく捨てられてしまいます.第一線の研究者やビジネス・パーソンは一日に100~200通以上のメールに目を通さなければならない人も珍しくはないこと,さらに彼ら・彼女らはメールを読むこと以外に他の莫大な仕事を抱えているということを覚えておいてください.わかりにくいメールを解読している時間はないのです.お互いに顔をつき合わせた口頭コミュニケーションでは,その場でリアルタイムに質問し,不明な点を明らかにするというアクションが最も時間を有効・有意義に使う方法です.しかし,メールに関してはリアルタイムのやり取りがないため,内容が不明瞭な場合はそこでコミュニケーションは終わってしまうのです(あなたのメールは何を言っているのだかよくわからないので,もう一度ネイティブに推敲してもらってからメールしてくださいとか,メールではちんぷんかんぷんなので電話してくださいなどと返信してくれる人はおそらく非常に希です)

だだし,いま言いたいことを明確にメールに書けなくても,過剰に悲観する必要はありません.急に流暢な英語が書けるようになるわけではありませんが,一通り英文法を理解している研究者レベルのひとには,スタイルを“矯正”することにより,言いたいことが明確でわかりやすいメールを書けるようなることは十分に可能なはずです.このようにここでは,読まれる,そして内容をわかってもらえる英文メール・ライティングのスタイルを解説します.

(*)メールは送るのに手間やコストがかからない反面,真剣さが伝わりにくく,簡単に無視されてしまいます.米国のビジネス・パーソンのなかには,メッセージの真剣さを伝えるためにあえてメールではなく,ファックスや手紙を使う人もいます.ファックスは無視しにくいものですし,手紙はとりあえず封を切って中を見てしまうものです.

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プロフィール

島岡先生 写真
島岡 要(Motomu Shimaoka)
大阪大学卒業後10年余り麻酔・集中治療部医師として敗血症の治療に従事.Harvard大学への留学を期に,非常に迷った末に臨床医より基礎研究者に転身.Mid-life Crisisと厄年の影響をうけて,Harvard Extension Schoolで研究者のキャリアパスについて学ぶ.現在はPIとしてNIHよりグラントを得て独立したラボを運営する.専門は細胞接着と炎症.
ブログ:「ハーバード大学医学部留学・独立日記」A Roadmap to Professional Scientist
過去の連載:プロフェッショナル根性論 online supplement material

Photo: Liza Green (Harvard Focus)

ジョー先生 写真
ジョー・ムーア(Joseph Moore)
1999年から2004年までハーバード大学医学部のフォンアンドリアン教授のオフィスマネージャーとして,グラントの編集とポスドクと学生のための論文や申請書の作成と編集に関わる.
現在,フリーのライター兼エディターとして,International Piano and Classic Record Review等にクラシック音楽に関する記事の執筆,サイエンスの分野ではグラント申請,論文作成,プレゼンテーションの英文校正や編集を行っている.
ウェブサイト:http://www.bandoneoneditingservices.com/

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