令和6(2024)年度の科研費の公募が令和5年7月14日(金曜日)からはじまった.今年の公募開始と締め切りは前年度よりも半月ほど早くなった.「この前,審査結果の発表があったばかりなのに,もう公募開始?」と思われるかもしれないが,実際には審査結果の発表から公募開始までの期間は約2週間短くなっただけだ.
日本学術振興会から公表された令和6年度公募の変更点等は11項目ある.そのなかのいくつかは羊土社ホームページの「科研費獲得の方法とコツOnline」の速報(つまり本コーナー)ですでに紹介している内容と同じである.ここでは既報のもの以外を中心に解説していこう.
令和6年度の公募では,特別推進研究、基盤研究(S)の審査資料(研究計画調書)がカラー化された.基盤研究(A,B,C),若手研究,挑戦的研究(開拓,萌芽)は,これまでと同様,モノクロ印刷された研究計画調書を審査資料として使用する.
翌年度に継続が予定されている研究課題(以下「継続研究課題」)について,これまで研究計画の大幅な変更を行おうとする場合には,応募書類(研究計画調書)を作成して審査を受けなければならなかった.しかし,繰り越し手続きの簡略化や基金化が進んだことなどにより,研究計画を柔軟に変更することが可能となり,この制度の利用実績も減少していることから,令和6(2024)年度公募より継続研究課題の「大幅な変更の可否のための」応募書類の受付は取り止めとなった.
継続研究課題の研究が予想以上に進展し当初の目標をすでに達成したとき,研究種目を変えてさらに研究の発展を目指すことが起こる.そのときには,従来であれば研究課題の補助事業完了届と完了理由書を提出して,新しい研究課題に応募することになっていた.
しかし,「研究計画最終年度前年度の応募」によって応募できる研究種目が拡大されたことや,公募や審査のスケジュールが早くなり継続研究課題の研究を発展させることが可能となったこと,またこの制度の利用実績が減少していることなどから,令和6(2024)年度公募より完了届などの受付は廃止されることになった.
令和6(2024)年の研究活動スタート支援〔令和6(2024)年3月上旬公募開始予定.つまりまだ来年の話〕の応募要件が変更され,次のA)またはB)のいずれかに該当する者になる〔A)B)の応募要件は学術振興会公表資料「令和6(2024)年度公募における主な変更点等」より引用〕.
A) 令和5(2023)年9月20 日以降に科学研究費助成事業の応募資格を得,かつ文部科学省及び日本学術振興会が公募を行う以下の研究種目(※)に応募していない者
B) 令和5(2023)年度に産前産後の休暇又は育児休業を取得していたため,文部科学省及び日本学術振興会が公募を行う以下の研究種目(※)に応募していない者
(※)令和6(2024)年度科研費「特別推進研究」,「学術変革領域研究」,「基盤研究」,「挑戦的研究」及び「若手研究」
令和6(2024)年度の公募から,「研究費の応募・受入等の状況」欄が審査時の研究計画調書のPDFファイルに含まれずに,電子申請システム上に表示されて,審査委員はそれを参照することになった.この欄は研究計画調書の一部であることは変わらないし,ウェブ上での入力方法も変更がないので,これまでと同じように記載すればよい.
研究者の国際的な研究活動を促すために,研究計画に関連した国際的な取り組み(例えば,国際共同研究の実績や,海外研究機関での研究歴など)がある場合には,必要に応じて研究計画調書に記載できることを明確にした(これまでも書いてよかった).
具体的には「2 応募者の研究遂行能力及び研究環境」の説明欄に,「(1)これまでの研究活動」の記述には,研究計画に関連した国際的な取組(国際共同研究の実施歴や海外機関での研究歴等)がある場合には必要に応じてその内容を含めること」という文言が加えられた.
また,科研費公募要領に,科研費の研究成果の積極的な国際発信が必要であることが明記された.そこには「科研費においては,直接経費を使用して学術論文等による国際的な研究成果の発信はもとより,研究成果広報活動などのアウトリーチ活動もできますので,国際的な研究成果の発信とともに社会・国民への情報発信に努めてください」と太字の部分が新たに加えられた.
「国際共同研究強化」は科研費の「基盤研究(海外学術調査を除く)」「若手研究」に採択されたものが応募可能であったが,若手研究者の研究活動の国際化を推進するため,「特別研究員奨励費」の採択者も追加された.
これに伴い,日本学術振興会特別研究員(DC)の採用者は,受入研究機関から科研費応募資格を与えられた場合,当該種目に限り研究代表者としての応募ができるようになった.
多くの申請者にとって,(1)〜(11)の項目は応募においてそれほど重要ではないが,(8)と(9)については覚えておいてもよいだろう.また日本学術振興会特別研究員の採択者にとっては(11)により,「国際共同研究強化」にチャレンジするのもよいだろう.
令和6(2024)年度の公募では申請書のフォーマットの大きな変更はなかった.もし昨年度の公募で不採択だった方は,昨年度の申請書をブラッシュアップして,今年度の申請に臨んでもらいたい.