令和7(2025)年度の科研費公募の主な変更点〜注意! 申請書フォーマットの変更あり〜(2024.07.19掲載)

執筆:久留米大学客員教授,ジーラント株式会社代表取締役児島 将康

令和6年7月16日に,今年の科研費公募〔令和7(2025)年度に採択される課題の公募〕が開始された.公募期間は,令和6(2024)年7月16日(火曜日)〜令和6(2024)年9月18日(水曜日)午後4時30分(厳守)である.

今年もいくつかの変更点があるが,一番に注意すべきことは,基盤研究および若手研究の申請書フォーマットの変更である.また基盤研究,若手研究,挑戦的研究の「応募者の研究遂行能力」の欄にも軽微だが,重要な変更がある.

まず,この申請書フォーマットの変更点について解説する.

1.基盤研究(A,B,C)と若手研究の申請書フォーマット:「研究目的,研究方法など」の変更点

1 研究目的、研究方法など
*(6)は若手研究にはなく,基盤研究のみに追加された

変更①

昨年度:(1)本研究の学術的背景,研究課題の核心をなす学術的「問い」→

今年度:(1)本研究の学術的背景や本研究の着想に至った経緯,研究課題の核心をなす学術的「問い」,

になった.つまり,これまで(3)にあった「本研究の着想に至った経緯」が(1)に組み込まれた.この変更で,学術的背景の後に,申請者のこれまでの研究成果を書く流れになって書きやすくなった.どのような「着想に至った経緯」があったのか,そこでどのような問題点が浮かび上がってきたのかを説明して,次の学術的「問い」につなげていけばいいと思う.

変更②

基盤研究(A・B・C)に「(6)本研究がどのような国際性(将来的に世界の研究をけん引する,協同を通じて世界の研究の発展に貢献する,我が国独自の研究としての高い価値を創出する等)を有するか」が新しく加わった.この国際性に関しては,審査においても「研究課題の国際性に関する評定要素」が新たに加えられた.ただし,この(6)の項目は若手研究にはない.

令和6年6月24日の科学技術・学術審議会の学術分科会研究費部会による「第12期研究費部会における科研費の改善・充実及び今後の議論の方向性について(中間まとめ)」には,

『令和7年度助成に係る公募から,「基盤研究(A)・(B)・(C)」において「研究課題の国際性」を新たに評定要素に加え,高く評価された研究課題については,研究費配分額の充実により国際競争力のある研究に挑戦できる環境を実現することとする.更に,若手研究者の参画を要件としていた「海外連携研究」の「基盤研究種目群」等への統合後においても,国際共同研究の助成を通じた若手研究者の育成に資するよう,「基盤研究(B)・(C)」において,「研究課題の国際性」の評定要素で高く評価された研究課題であって若手研究者を研究代表者とするものを優先的に採択する枠組み(「国際・若手支援強化枠」)を設けることで,高い国際競争力を有する研究の量的拡大をも目指すこととする』と書かれている.

これから読み取れることは,

  • 「研究課題の国際性」が高く評価された研究課題については,研究費配分額の充実があること
  • 「基盤研究(B)・(C)」において,「研究課題の国際性」の評定要素で高く評価された研究課題であって若手研究者を研究代表者とするものを優先的に採択する枠組み(「国際・若手支援強化枠」)を設けること

の2点だ.つまり国際性のある研究課題が有利になるということ.特に若手研究者の国際性のある研究課題については,「基盤研究(B)・(C)」に「国際・若手支援強化枠」が設けられて有利になると予想される.

「国際性」とは申請書の説明欄のなかにも「将来的に世界の研究をけん引する,協同を通じて世界の研究の発展に貢献する,我が国独自の研究としての高い価値を創出する等」と書かれている.自分の研究がどのような点で「国際性」があるのか,工夫して書く必要がある.

2.「応募者の研究遂行能力」欄の軽微な変更点

基盤研究,若手研究,挑戦的研究の「応募者の研究遂行能力」欄では,軽微だが重要な変更点がある.それは「これまでの研究活動」のうしろに「(主要な研究業績を含む)」と加えられたことである.研究業績を記載するのは,申請者が研究計画を実行・実現できることを示すためだ.これは「いくらアイデアがよくても,ある程度の研究業績がないと,採択は難しい」ということを明確にするものだと考えられる.

以上が申請書に関する今年度の変更点だ.

2 応募者の研究遂行能力及び研究環境
1 応募者の研究遂行能力及び研究環境

3.申請書以外の変更点7つ

  1. 審査資料の電子化及びカラー化について
  2. 男女共同参画推進に向けた科研費における応募要件の緩和について
  3. 研究活動スタート支援及び奨励研究の審査方式の変更について
  4. 研究インテグリティについて
  5. 安全保障貿易管理の体制整備について
  6. 研究データマネジメントについて
  7. 国際的に波及効果の高い学術研究の推進について

順に解説していく.

1.審査資料の電子化及びカラー化について2024.04.052023.03.082023.03.22の既報も参照)

今年度の公募から,新たに「学術変革領域研究(A・B)」「学術変革領域研究(A)(公募研究)」「奨励研究」の研究計画調書(申請書)をカラーで受けつけることになった.審査委員は電子申請システムを通じてカラーの研究計画調書(PDFファイル)を閲覧し,審査を行うことになる.

今年度の公募よりも前に審査資料の電子化・カラー化の対象となっている研究種目は「特別推進研究」「基盤研究(S)」「研究活動スタート支援」「海外連携研究」「国際共同研究強化」「帰国発展研究」である.

現在は,その他の研究種目〔基盤研究(A,B,C),若手研究,挑戦的研究〕の審査においては,これまでと同様,モノクロ印刷された冊子体の研究計画調書を審査資料として使用することになっている.しかし,これらの種目も将来的に電子化およびカラー化されることになっている.

2.男女共同参画推進に向けた科研費における応募要件の緩和について2024.03.05の既報も参照)

若手・子育て世代の研究者が,より積極的に研究に復帰・参画できる環境を整備するため,「研究活動スタート支援」および「若手研究」の応募要件に「未就学児の養育期間」が配慮期間として追加された.なお,「未就学児」の対象は,「子」であり,民法上の解釈に即して応募者本人の子(実子,非嫡出子または養子)となっている.

3.研究活動スタート支援及び奨励研究の審査方式の変更について2024.03.05の既報も参照)

令和6(2024)年度から,「研究活動スタート支援」および「奨励研究」の審査方式を2段階書面審査から一度の書面審査で採否を決定する審査方式へ変更された.このことにより,審査時間が短縮され,早期の審査結果の通知が可能となった.

研究活動スタート支援については,採択されなかった場合であっても,審査結果の通知後に基盤研究などへの応募のために必要な準備期間を確保することが可能となった.

4.研究インテグリティについて

「研究インテグリティの確保に係る対応方針について」(令和3年4月27日統合イノベーション戦略推進会議決定)を踏まえ,研究活動の透明性の確保のため,すでに必要な対応が実施されている.

令和7(2025)年度公募からは,e-Radに登録された研究インテグリティにかかわる情報が科研費電子申請システムと連携され,このe-Rad情報を基に研究計画調書に必要な情報を入力することになった.

特に注意すべきことは,e-Radにおいて,研究代表者および研究分担者が所属機関への研究インテグリティに係る誓約状況を登録していない場合は,科研費に応募できなくなることだ.必ず事前に当該情報の登録状況を確認すること.

5.安全保障貿易管理の体制整備について2024.04.05の既報も参照)

科研費による研究活動を行う研究者に対しては,安全保障貿易管理体制や対処方法などを十分に確認することが求められている.

令和7(2025)年度に助成を行う研究課題から,交付決定までに当該研究課題において外為法の輸出規制にあたる貨物・技術の提供が予定されているかの確認,および提供の意思がある場合は研究機関の管理体制の有無について確認が必要だ.提供の予定がある場合,管理体制が整備されていなければならない.研究機関は当該事務を適切に行うために必要な体制を整備し,整備状況をe-Radへ登録することが必要だ.この登録がきちんとされていないと科研費への応募ができなくなる.

6.研究データマネジメントについて

令和6(2024)年度から,原則すべての研究種目において研究データマネジメントプラン(DMP)の作成が求められるようになった.DMPの作成例についての詳細は交付内定時に示される(学術振興会の該当ページにはDMPの様式見本がある).この内容に沿って研究課題における研究成果や研究データの保存や管理を行うことが必要になった.

7.国際的に波及効果の高い学術研究の推進について

令和7(2025)年度から,国際的に波及効果が高い学術研究の推進のため,基盤研究(A・B・C)において「研究課題の国際性に関する評定要素」が新たに加えられた.研究計画調書様式の「1 研究目的,研究方法など」の欄に,研究提案がどのような国際性を有するかについて記載が求めらるようになった.

この詳細については上記した1基盤研究(A,B,C)と若手研究の申請書フォーマット:「研究目的,研究方法など」の変更点 変更②を参照してほしい.

以上が今年度の科研費公募の主な変更点だ.変更点に十分に注意して,申請書を作成してください.

参考情報

本書関連項目

  • 1章-2.科研費の種類(P25〜)
  • 1章-4.審査のしくみ(P37〜)
  • 3章-4.「本研究の学術的背景.研究課題の核心をなす学術的「問い」」の書き方(P134〜)
  • 3章-6.本研究の着想に至った経緯や,関連する国内外の研究動向と本研究の位置づけ(P145〜)
  • 3章-9.応募者の研究遂行能力及び研究環境(P165〜)
  • 3章-13.研究費の応募・受入等の状況(P181〜)
  • 3章-14.挑戦的研究(開拓・萌芽)の申請書について(P184〜)

これまでの速報

児島 将康

(久留米大学客員教授,ジーラント株式会社代表取締役)

書籍「科研費獲得の方法とコツ」「科研費申請書の赤ペン添削ハンドブック」著者.毎年の科研費公募シーズン前後に20件近くの科研費セミナーで講演し,理系・文系を問わず申請書の添削指導を行っている.令和6年4月より研究者を支援するジーラント株式会社(https://g-rant.org/)を立ち上げ,活動している.

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